上肢のハンドリングの考え方

5/1のハンドリングセミナーにご参加頂き、ありがとうございました!

 

上肢のリハに関わる機会が少ない方も多く、容量も多く難しかったかな?と思いますので、少し補足も踏まえまして、参加者の方限定に記事を書いてみました!

 

少しでもご参考になれば幸いです!

【上肢の筋筋膜のつながり】

上肢には上記の4つのライン(経線)が存在します。

SFL(浅前線)・SBL(浅後線)・DFL(深前線)・LL(外側線)・FL(機能線)・SL(ラセン線)といった他のラインは基本的に体幹と下肢をつないでいます。

 

上肢と下肢をつなぐラインは基本的にはありません。FLは後面で広背筋〜胸腰筋膜〜大殿筋(下の図)、前面で大胸筋〜腹直筋〜恥骨筋とつながっていますが、上下肢の末梢まではつながっていません。

 

ざっくり考えますと上肢の4つのラインは、体幹〜下肢をつなぐ他のラインとは独立しています。

 

つまり体幹〜下肢をつなぐラインは姿勢制御の役割を担うとともに、上肢のラインは独立して操作系の役割を担うとも捉えられます。

ただし、上肢と体幹・下肢は無関係か?というとそうゆう訳ではありません。

 

上肢運動は、鎖骨・肩甲骨〜上腕骨〜前腕〜手と遠位につながっていきます。

それらの土台となる部分がグラグラしていては、そこにつながってくる筋活動は本来の役割を発揮できません。いくら能力があったとしても。

 

セラピーボールの上に座って骨盤が不安定な部分ではなかなか安定することができず、上肢もバランスを取る姿勢制御に参加してしまいますよね。

 

下肢・体幹による姿勢の保持能力があってこそ、上肢の機能は発揮しやすいといえます。

 

また上記のように僧帽筋下部線維は胸腰筋膜と一部つながりを持っています。

胸腰筋膜は脊柱起立筋や大殿筋・大腰筋・腹斜筋などの腹筋群により構成され、骨盤〜胸郭間の安定性を高めるために非常に重要です。胸腰筋膜の緊張により胸郭〜骨盤がどっしりと安定することで、僧帽筋下部線維が肩甲骨を動かし、安定させる(内転・上方回旋。言い換えれば外転・上方回旋を過度にしないように制御する)ために働くことができます。

 

また前鋸筋も深層では胸腰筋膜とつながりがあるようです。

そこからも胸腰筋膜の働きとscapula setは強い関係が推測できるのではないでしょうか?

 

 

また昨日実際の患者さんの動画も提示しましたが、僧帽筋下部線維を下方に牽引することで上肢挙上がスムーズになった患者さんがいましたね。

 

僧帽筋は上記のSBALに属しています。僧帽筋が脊柱方向に求心性収縮できることで、肩甲骨が体幹に対して安定し、かつ三角筋にも求心方向に張力を伝えることで、SBAL全体の求心性方向への収縮をサポートすることで、上肢挙上がスムーズになったと予測できます(もちろん他の要因が影響しているかもですが)。

 

ただSBALによる上肢の挙上や上肢全体の空間保持(挙上の働きの維持)のためには、肩甲骨〜上腕骨〜前腕をつなぐ上肢の軸の形成が重要になります。肩甲上腕関節・肘関節の関節適合が保たれているか?ですね。

上肢軸の形成に重要なのはDBALです。それは肩甲上腕関節を安定化に貢献するrotator cuffの存在と、肘関節を直接構成する上腕骨・尺骨をつなぐ上腕三頭筋、肩甲胸郭関節の安定に貢献する菱形筋(菱形筋は前鋸筋と連結)が全てこのラインに属しているからです。

 

脳卒中などで上肢の重さの訴えがある場合、どんなことが考えられるでしょうか?実質的には筋の萎縮などもあり物理的にはむしろ軽いはずなのに、なぜ重さの訴えがあるのでしょうか?

 

1つの可能性としては筋の張力が重さに対して不足しているため、わずかな牽引(筋の伸長)の感覚がそれを生み出しているのかもしれません。座位や立位では重力により、肩甲骨は下制・下方回旋、肩甲上腕関節部は上腕骨以遠の重さによる下方牽引が引き起こされます。通常では前者の肩甲骨をSBALが、後者の肩甲上腕関節をDBALの緊張により制御し、関節面の適合が保持されています。

 

患者さんはSBALかDBALのどちらの張力低下か、または両方なのか?を区別できません。

ただ「肩が重い」「腕が重い」などと表現されます。

そしてその場合、多くは筋が大きく働かせやすい僧帽筋上部線維で対応(代償)しようとします。

 

しかし、DBALの機能不全が原因であった場合、僧帽筋上部線維の緊張を高めても実際には重いままであったりします。ただそこで患者さんがDBALを高めて問題を解決する、という手段はもっておらず、ただただ僧帽筋上部線維を使って対応せざるを得ないままです。

 

そこで、昨日の肩甲上腕関節の関節適合の状態を作り、肩甲上腕関節部での牽引を減らす〜なくすという体験を作ることが一つの介入の糸口となります。

 

肩甲上腕関節部での牽引ストレスが重さの感覚を生み出しているか?を確認するには、

①徒手的に肩甲骨と上腕骨を把持して、関節面に軽く圧迫を加えることで、重さの感覚が減るか消えるか?によって確認ができます。

 

健常者であれば一度、腕に重錘を巻いて肩が引かれる感じを体験しながら、他者に上記操作①を行うことで重さの感覚に変化があるかを感じてみてください。

 

ですが、昨日もお伝えしたように、ただ物理的な重さを取ることで軽くなると分かったとしても、患者さん自身でそれができるように導けないと、問題解決にはつながりません。

 

そのために昨日は

②DBALに属する上腕三頭筋を使って、上腕骨に対して肩甲骨を引きつける操作

を行いました。

 

私は筋を使って関節運動を誘導することが多いです。

それは自分自身の身体を動かすためには筋緊張の変化が必須だからです。

運動の再現には、自身の筋緊張の変化とその時の骨の関係性の変化やその時同時に入力される体性感覚の入力情報との一致が必要だと考えています。

 

筋緊張の変化(出力)と入力情報の一致が運動主体感を作ります。

 

肩甲上腕関節の安定感(関節適合の維持と牽引がかからない状態)は操作①で他動的に作ることができます。がそれを患者さん自身で行うためには、同時に筋の感覚を伴う必要があると考えています。

 

【関節適合】

私たちは日常生活で関節が不安定(外れそう、抜けそう)になるような体験をしません。つまり常に関節面が適切に接するように制御されています。

しかし患者さんは筋緊張のアンバランスにより、病前とは異なる体験をしています。その違和感(抜けそう、引っ張られている、重い)の体験が代償や過剰努力につながっていることもあります。

 

上肢だけに限らずですが、ROM訓練、自動介助運動、動作訓練など常に私は関節適合が保たれてながら運動ができているか?を意識しています。それが自己にて難しいようであれば、それを徒手的にサポートしながら行っています。

 

上記の操作では、

私は手を把持して、

①手関節・肘・肩甲上腕関節の適合の維持

②SBAL(僧帽筋・三角筋・前腕伸筋群)の収縮により、上肢を保持または挙上できるよう免荷量を調整

③SBALの働きにより緩んだ分だけのMP関節伸展+MP伸展方向に引き出すことで浅・深指屈筋の伸長感のサポート

 

を行っています。わずかにでもターゲットとなる筋の収縮が残存している場合、

その収縮が関節運動を伴うことが運動主体感を作るためには重要となります。

 

自分で(三角筋や僧帽筋に)力を入れるという出力と

上肢が上に持ち上がるor上肢が重さで下に落ちようとするのを自分で止められるという視覚的、体性感覚的な入力が一致することで、

 

「自分で手を動かしている」

 

という体験を作ることができます。

上肢・手指は急性期・回復期では介入が後回しになりやすい部位でもあります。片麻痺であればADLの自立の獲得のために、非麻痺側での動作を遂行を優先したり、介入したとしても拘縮予防であったりと、積極的な機能面への介入は現在の病院の在院日数の中では難しい側面があります。

 

腱板断裂などの運動器疾患でも、移動はできるために入院中での集中的な介入ができることは少なく、外来での介入がメインな病院がほとんどではないでしょうか?

 

そのため上肢・手指の細かな機能を学んだり、考える機会は少ないかもしれません。

ただ脳卒中の方であれば、退院後生活が落ち着いた後に「この手がもう少し動くと良いな」と諦めていたニードが再び生まれてくる場合もあります。

 

その時に、何ができるのか?上肢・手指の機能面のニードがある患者さんのためにできることを一つでも増やすきっかけになれば幸いです。